海外の成功事例に学ぶ:常識を無視した新商品。ノンアルコール焼酎?
クリスマス、お正月、バレンタインなど、ここ数ヶ月間これらのイベントに合わせ多くの新商品が世界中で発売されました。 これらのシーズンイベントなど大きなイベントやトレンドに合わせての新商品の開発はアルコール飲料業界のマーケティングにとって不可欠となっております。
一方で、ハロウィンの時期は街中が一斉にモンスターとパンプキンに染まりますが、その後はあっという間にハロウィンなど忘れて街はクリスマス一色となります。ハロウィン向けの商品の売上げのピーク期間は非常に短く同業他社も多くの新商品を発売します。
つまり、このような大きなマーケティングイベントやトレンドは大きな商業的な機会を提供すると同時に、競争は激しく、売上げの期間も短いという課題もあります。これは日本に限らず海外も同様な事が言えます。
全世界で加熱するハロウィンのマーケティングイベント。アルコール飲料セクターでユニークな企画をピックアップ
それでは、同業他社との競合を防ぎつつ、売上げを伸ばし、かつ顧客のロイヤリティを高めるような新商品を開発、発売する方法は無いものでしょうか?
世界のアルコール飲料業界でユニークな新商品をトラッキングしている「ラディアス」が最近注目した2つの新商品で、実際にこのような課題に挑戦し、成功した新商品の事例をご紹介します。
常識から外れてみる。あり得ないものを創造する。
ノンアルコール焼酎!?
蒸留酒(スピリッツ)といえば、ウイスキー、バーボン、ウォッカ、焼酎など一般にアルコール度数が高いハードリカーです。ストレート、水割り、ロック、お湯割り、カクテルなど様々な飲み方がありますが、蒸留酒と言えば、やはり度の強いお酒だというのが常識ではないでしょうか?
今回紹介する新商品は、蒸留酒。しかしアルコールが入っていない蒸留酒です。実は、日本語でどのように書けば正しいのか正解が無く困っております。同社のウエブサイトではノンアルコールスピリッツと表記。こちらの記事の翻訳ではノンアルコール蒸留酒と表現しました。
どのくらいアルコールの無い蒸留酒が常識では考えつかないものなのか、日本の蒸留酒で考えてみます。日本の蒸留酒であれば「ノンアルコール焼酎」「ノンアルコール泡盛」などとなります。アルコールの無い焼酎ってどのような焼酎なのか、イメージがわかないですね。ノンアルコール蒸留酒(スピリッツ)のインパクトを感じていただけたのではないでしょうか?
「飲まない日に飲む」ノンアルコール蒸留酒
このノンアルコール蒸留酒は 「Seedlip」という2015年10月に販売となった商品です。
「Seedlip」は、オーク皮、オールスパイス、カルダモン、レモンなど6種類のボタニカルズを使い、銅製の蒸留器で蒸留されたノンアルコールのスピリッツ。砂糖、人工甘味料、人口香料などは使用せず無添加です。
創業者Ben Branson氏は、1651年発行のJohn Frenchの “The Art of Distillation 蒸留のアート” などの古い文献で当時の蒸留の技術などを研究、この本の中のハーブを蒸留した「アルコール入りの薬」そして「アルコールの入っていない薬」の記載に注目しました。
同氏は、この中世の忘れ去られたハーブのレシピをもとにこのSeedlipを開発したと語っています。「Seedlip」の作り方は限りなくジンに似ています。
ノンアルコール蒸留酒という新カテゴリーの創造
同社はこの世界でも珍しいノンアルコール蒸留酒の発売を機に、「ノンアルコール蒸留酒」という新カテゴリー誕生を狙っているそうです。
すでに、ロンドンの高級百貨店、またレストランやバーなどで販売中で、発売早々大人気となりました。同社は1回のバッチで作れる量を大幅に増量し、またボトリング請負会社も3社目と契約、さらに物流部門の強化を図るなど急成長しております。
同社のウエブサイトではこのように語っております。
世界で最初の
ノンアルコールの蒸留酒ボタニカルズ栽培者、蒸留専門家、歴史学者と共に
このジレンマを問い続けた
あなたが「飲まない日に飲む」酒は?
私達はお酒の飲み方を根本から変えた
同社は本気でノンアルコール蒸留酒という新カテゴリーの創造に挑戦をしているようです。
常識にとらわれない新商品投入のタイミング
冬に夏向けの新商品?
イギリスのスパークリングワインメーカーが冬場にあえて夏向けの新商品を発売した事例です。
冬になると日本では「熱燗」や焼酎の「お湯割り」が欲しくなるように、お酒の志向も季節に合わせて異なります。海外でもクリスマスの時期などには、ワインをあたためて飲むなどホットワインなど寒い時期のお酒の飲み方には工夫をしているようです。
スウェーデンで毎年恒例のホットワインBlossa、今年のフレーバーは「アールグレイ」。過去にはゆず生姜フレーバーも。
クリスマスにはクリスマス対象の新商品がたくさん発売となります。一方でこの時期をすぎると、ビールやスパークリングワインなどの冷たいままで飲むアルコール飲料の新商品の数も少なくなります。しかし、今回の新商品はクリスマスだけにこだわらないようなホットなメッセージで、新商品のスパークリングワインの販売を試みています。
「冬に夏を味わってほしいから」
この新商品、スピリッツメーカーHalewood International社が販売開始したフレーバー付きのスパークリングワイン「Ooh Passionfruit Lambrini」です。
同社が既に販売しているイチゴ味、チェリー味、ピーチ味などのフレーバーをつけたスパークリングワインをシリーズ「Lambrini」は大当たり、女性を中心に人気のあるブランドとなっております。
今回の新商品は「パッションフルーツ」フレーバーのスパークリングワインで、同社はこの新商品をこのようなコピーであえてこの時期に発売をしています。
「冬に夏を味わってほしいから」
同社は女性向けのフレーバー付きスパークリングワインを製造販売し、女性をターゲットに様々なマーケティング戦略を打ち出してきています。
競争が少ない時期にエンゲージメントを狙う
同社のウエブサイトは、色彩も鮮やかで、明らかに女性をターゲットとしたデザインです。
またコンテンツとしても、ダイエットやフィットネスなどのターゲット層が関心の高いコンテンツも用意してトラフィックを常時高いものにする試みをしています。
例えば、ツイッターやFacebookなどで同社の製品に関して投稿した場合、同社のホームページ内で写真と共に掲載されるなど、普段からターゲット層のファンのエンゲージメントを高めるためにSNSを有効に活用しています。
同社は、これまでも様々なフレーバーの商品を市場に出してきた。同社商品のファンとしては次は何か?が非常に興味があるところです。
同社はこの「次のフレーバー」に関し、SNSを使って「クイズ」として投げかけました。フォロアーとしては、フレーバーの種類?いつ発表になるか?など自然と気になってしまうという企画です。
今回の新商品のローンチ戦略には、SNSでのターゲット層への呼びかけが有効だったようです。
顧客のエンゲージメント強化と新商品の発売
冬だから家に閉じこもる事無く、夏のように積極的に外出してパーティを楽しもう。そのような顧客層に他社の新商品が少ない時期に強いインパクトを与えての商品の発売。このように注目されるような販売はがぜん印象に残ります。
本来は需要が下がってもおかしくない時期にあえて季節感の全くない新商品を販売、その不利な条件下で定着したファン層にSNSを活用してエンゲージメントを高める取り組みがイノベーションであると言えます。
あえて常識を無視する新商品開発&マーケティング戦略
あえて競合他社がしていないことをすること
このように2つの全く異なる新商品を見てきましたが、いずれの商品も常識にとらわれずにユニークな販売戦略をとっています。
需要が下がる冬場にあえて新しいスパークリングワインを発売。多くの愛好家は「強い度数」を期待して飲むスピリッツをあえてノンアルコールの製品を開発。これら二つの新商品の発売の事例から成功の要因として以下の点があげられます。
- 常識にとらわれない、常識の裏をかく
- 発売のタイミングをずらすことで競合が少ない
- 適切なターゲット層へのアプローチと掘り起こし
- 新しいカテゴリーへの挑戦
実例からみる成果とは?
新商品の「イノベーティブか否か?」の判断には多くの要素を見る必要があります。今回の事例では「常識にとらわれない」開発&マーケティング戦略でのイノベーションの事例をあげてみました。
このようなユニークな新商品開発&マーケティング戦略により以下のような成果を今回の実例では効果的に獲得する事ができたと分析致します。
- 新商品の差別化
- 潜在的なターゲットの顕在化
- 顧客ロイヤリティの向上
- 新商品ローンチのリスク軽減
同業他社との競合を防ぎつつ、リスクを下げ、顧客のロイヤリティを高めることは新商品戦略にとって非常に重要な事です。あえて常識通りの商品開発、マーケティングではなく、その裏を狙う戦略も考えてみてはいかがでしょうか?
出典、参照記事
この情報は、IWSRの会員向け情報サービス「ラディアス」の新商品情報と商品を製造販売する両社のウエブサイトからの情報をもとにIWSR Japanが記事の作成、編集してお届け致しております。ラディアスでは世界のアルコール飲料業界の イノベーティブな新商品をトラッキングしております。
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文責:前田静吾